仁愛大学大学ならびに大学院に入学された学生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
田代俊孝(たしろしゅんこう)学長より、令和2年度新入生へメッセージをお届けします。
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新入生のみなさん入学おめでとうございます。ここ越前の里にも、確かに春がやってきました。新型コロナ感染症で、平穏な生活が奪われ、世界中の人々が苦しみ、対応に追われています。しかし、この事態が収束して、必ず春がやってくることを信じて、その対応に最善を尽くして、皆さんの教育環境を守りたいと思います。その中で、多少の不便さがありますが、ご理解をいただきたく存じます。
さて、本学は『仏説無量寿経』の「慈恵(じえ)博く施し、仁愛兼ねて済う」ということを建学の精神にしております。平易に言えば、「互いに『いのち』を尊び、共生社会の実現を目指し(仁愛)、世を照らす灯となって、それを実践する(兼済)。」ということです。そして、それを実践された親鸞聖人の人間観を教育の根本にしております。
ところで、先日、いのちの価値、人間の価値を問いかける大きな出来事がありました。相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件の判決です。事件を引き起こした被告は「意思疎通できない障がい者はいらない。安楽死させるべきだ」と一貫して主張していました。つまり、障がいをもった人は、社会の役に立たず、リスクの負担ばかり増える。だから、不要だという論理でした。裁判は事件の残虐性から死刑判決を出し、終わりにしました。しかし、この事件は、私たちに「いのち」について大きな問いかけをしています。
被告は、人間の価値を生産性、効率性にのみ認め、「役に立つ、立たない」で人の善し悪しを計っています。
人の価値は、役に立つ、立たないだけで測れるのでしょうか。仏教はいかなる殺生も否定します。そして、『仏説阿弥陀経』には「青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光、」と説かれています。つまり、青い色のものは青い光を、黄い色のものは黄い光を、赤い色のものは赤い光を、白い色のものは白い光を放ち、それぞれに輝いています。『仏説無量寿経』には「無有好醜の願」、つまり、好ましいも醜いもなく、「悉皆金色の願」とあります。つまり、みんな悉く金色に輝いているのです。私の価値観だけが絶対ではありません。人それぞれに、私の気づかない様々な価値、つまり輝きがあります。意思疎通のできない人にも、私たちの気づかない価値があります。私が気づけないだけなのです。
だから、障害があってもなくても、死に近い人であろうとなかろうと、「人は存在そのものに意味がある」のです。私たちは、経済の価値観に流されて知らず知らずのうちに優生思想に陥っているのです。皆さんのご意見はいかがでしょう。今一度、いのちの価値、人間の価値について考えてください。正解はありませんが、考えることに意味があるのです。
本学は、皆さんが、それぞれの分野の高度な専門的知識とスキルを修得するとともに、心の通った人間性を培う「ソウルメイキングキャンパス」です。「いのち」を学ぶ場です。それは、どんな職業に就こうとも、必要とされる高度な教養です。正門に「美しい世を拓く灯となるために」と書かれています。「美しい世」とは、そのような心の通った「人間性豊かな世」という意味です。
この理念に基づいて、多文化共生事業や「地域共創センター」の事業も推進しております。特に、本年度から福井県、越前市、それに(株)福井村田製作所様の支援により、「仁愛大学ポルトガル語寄付講座」を開講いたします。これは、この地域に多いブラジルの人たちとの共生を願う事業で、産・官・学連携の新しい試みです。
本学は地元地域との関係が密接な大学です。今後も地域のご支援をいただき、連携事業をさらに進めてまいります。
越前市、福井県などのご協力に感謝するとともに、諸君が本学で充実したキャンパスライフを送り、立派に成長されますことと、一層ご活躍されますことを念じます。
令和二年四月三日
仁愛大学学長 田代俊孝
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